夢の海

――すべてうつろうその果てに――

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かわい子ちゃん

飲み会。総勢10人。
たまたま斜め向かいに中年男性、向かいはまだ到着していない若い女の子。

「○○さん、遅いですね」
「ああ。だって遠いよね。横浜からでしょ?」
「○○さんに会うの久しぶりなんですよ。早く会いたいです。可愛いですよね~、○○さん」
「可愛い!?」
「可愛いですよ!」
「ふぅ~ん。やっぱり、あれだね。女性と男性では見方が違うんだね。僕はあんまり――」
「そうですか!? 可愛いじゃないですか、○○さん」
「可愛いかねぇ。いや、分かんないなぁ」

そういうものだろうか。
○○さんは可愛いけど。
目はくりくりしているし、まだ20代で、おっとりした話し方。好みはあると思うけれど、「自分は好みじゃないけど」と言ったとしても、たいていの人が「悪くない顔」と認める容姿。――だってたいていの人が「決して美人とは言えない容姿」と思う人だっているんだから。

自分が明らかに「まあ、誰が見ても、美人だとは言わないだろう容姿」のわたしから見たら、万人が認める可愛らしい人だ。

「すみません。遅くなりましたぁ」
「○○さん! 座って座って~!」

落ち着いて会話が流れに乗り始めると――

「私は、やっぱり、あの、××が、**で、・・・だと思うんですよ――」
「ああ、そうなの」

わたしはふと目を疑う。
『ああ、そうなの』とそっけない口調で言うその男性の目は、うっとりとゆるんで口元もゆるんでいる。

なんといっても、やっぱり彼女は可愛いのだ。

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苦難か逃げか

「この特集はどうでした? 職場でのうつについて、どのような症状が出るかから治療、回復まで分かりやすかったと思いますけど」
「そうですね・・・」
「イラストも多用して、重すぎないイメージと読みやすさ、分かりやすさを心がけている特集ですよね」
「私はいいと思いませんでした。自分が『うつ』ではないから、気持ちが分からなかっただけでしょうか」
「・・・・・・」
「私も職場で、うつになるほど――なりたいほど嫌なことがたくさんありましたよ。でも乗り越えました。乗り越えるしかなかったから。だから『うつ』『うつ』と言うのは逃げだと感じるんです」

なるほど。

辛い思いをしても、会社を辞めるわけにもいかず、どうにもならず、なんとか頑張らなきゃならないですものね。

でも「うつ」の人も、辞めるわけにもいかず、それでも辞めざるを得なかったら後の生活に苦労があったりして、辛いだろうと思います。「うつだ」と言ったところで問題が解決するわけではなく、結局、なんとかするしかないことは同じですよね。

だけど、自分は一人で頑張らなきゃならなかった。頑張れないところまでも頑張った。なのに「うつだから」と周囲に理解を求めたり、家族や友人や医師が同情してくれたりするのを見ると、「私は一人で頑張ったわよ」と思えてしまう。わたしも同じ気持ちになったことがありましたよ。だからすごくよく分かります。

うつの人を知ってもいる。だからうつの人が大変な思いをして、治したいのになかなか治らなくて、必死で頑張っているのも分かっています。

でもこのイラストの人は「重すぎない」。だから余計ですよね。辛くて辛くて、でも治らなくて辛いままでいる人が「うつだから」と言っても反感はわかないけれど、こんな可愛いイラストでちょっとストレスがたまって「なんか会社に行きたくない。お腹が痛い気がする」「うつだったのね」って言われたら――。なんだか逃げているようで、ずるいようで、納得いきませんよね。

境目って難しい。うつという「病気」になった人は、自分ではどうしようもない。だから病気。治療をしなければ治らない。病気の人に対して「逃げ」とは思わない。
でもどこからが本当に病気で、どこまでが甘えや逃げなのか分からないから、難しいのね。

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シンプルライフ

友達だけれど、その華麗な経歴には憧れていた彼女が、今は潔いアルバイト生活をしている。
知識や資格が必要で、だから派遣OLになっても高い賃金をもらえるという仕事を続けてきた彼女。
でも彼女自身は、その仕事をもう続けたくないと言う。
疲れてしまったから、給料が安くてもいい、ひっそり働いて静かに生きたいと言う。

もうアルバイト生活は1年を超えた。

「今の生活に満足しているからさ、クビにならなきゃいいな、と思ってるのよ」
――クビにはならないでしょ?
「分からない。景気とか会社の経営とかいろんなことで、店の統合なんかもあるしさ」

「時給はすごく高いわけじゃないけど、もっと安いとこもあるし。
生活していければいいと思ってるんだ」
――その業種としては悪くない時給だよね。
「楽に生活はできないよ。でもなんとかやっていければいいと思ってる。
お昼は社食が安いし、お弁当を作ることも多いし、夜はたいてい自炊してるしね」

「前の資格学校時代の友達とは、ほとんど連絡をとってない。
皆が勉強したことを活かして仕事してる話なんて、聞きたくないからさ」
――聞いたら気になるもんね。
「あの人がどうしてるとか、こういうふうに頑張ってるなんて聞いて、
自分は何もしてないって落ち込んだりしたくないし」
――でもさびしくならない?
「落ち込んだり、気になって眠れなかったりするより、いいよ」

「その前の会社時代の友達とも、ほとんど連絡をとってない。
今でもときどき会うのは一人か二人。
今の給料じゃ、高いお店とかに何回もつきあってられないからさ。
ちょっと気に入ってた人に彼女ができたりしたら、そんなのも聞きたくないし」
――分かる。わたしもあなたと知り合った最初の頃は、思った。
皆こんなに高いお店を使ってたんだ、って。今では慣れたけど。

「今の職場でも親しい友達って、そんなに作ってないよ。
休憩のときもずっと一緒にいたりしないしさ。
ちょっと仲良くなりかけた子がいたけど、
仕事を辞めてから家に呼んでくれたりして、
そこまではしたくないと思って、あるとき断ったらそれきりになった。
でもいいんだ。
何回も出かけたりするお金もないしさ、家でのんびりもしたいしさ。
彼女の家に手土産買って交通費かけて行くくらいなら、
他にもっと会いたい友達がいるしさ。
別に何もしてないから、用事があるの?って言われたらないんだけど、
でも休みの日とかはゆっくり洗濯したり、好きなDVD見たり、のんびりしたいし」
――わたしも、職場が同じ人とプライベートにまで出かけるのは、好きじゃない。
毎日のように会ってるのに、どうして夜や休日まで一緒に過ごさなきゃならないのって思う。
お昼をいくらでも一緒に食べられるじゃない、って。
「それ、すごくよく分かる」

彼女は潔い。
いらないものを切り捨てていく。

あっさりと、とは言わない。
友達だった人とだんだん離れていって、残念だと思うこともあるかもしれない。
本当は皆の近況を聞きたいけど、でもやっぱり知りたくないという葛藤もあるかもしれない。

でも迷いながらも、悩みながらも、いらないものを切り捨てていく。

あの年でそんなふうに生きていこうと思えるなんて、潔いと思う。
わたしも思うけれど、実行には移せないから。
中途半端に切り捨てたり、また求めたりしてしまう・・・・・・

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小さなお店

かつてわたしが20代の頃に一緒に働いていたベテラン社員さんは、言っていた。

――あたしはいろんな事情を乗り切って結婚したときが、人生の花だったわよ。
それからおじいちゃんを説得して、うちをアパート経営にしたときが二度目の花ね。
この辺りもどんどん人が増えて、マンションやアパートが増えたからさ。
絶対アパートにしたほうがいいって、おじいちゃんを説得したのよね。

――あともうひと花、咲かせたいと思ってるのよ。小さな花でいいからさ。

わたしがこの職場を去った後も、ずっと定年まで働いたベテラン社員さん。
そして定年後も嘱託となって働いたと風の噂で聞いた。

ずっとずっと何年も後、偶然当時の知り合いに出会って、その後の噂を聞いた。

「××さん、うどん屋さんを始めたのよ。おうちの二階で、息子さんと一緒に」
「息子さん、勤めていた会社を辞めたんですか?」
「そうなの。前に二階にお好み焼き屋さんとかが入ってたでしょ。あそこが空いてたから」

うどん屋さんは昼間だけ営業。
もう仕事を引退したベテラン社員さんは、あくせくお金を稼ぐことはしなくていいと思ったのだ。
一日の販売分が終わったら終了してしまう。
つゆの味は自分の好みにこだわり、うどんのほうはそれほどこだわっていないのだとか。

儲けを必死で考える必要もなくなったときに、やりたいお店を好きなように開く。
それは楽しいことかもしれない、と思った。



かつてわたしが30代の頃に上司だった女性は言っていた。

――退職したら、家の近くで小さなカレー屋さんをやりたいの。
おいしい欧風カレーを出すのよ。
デザートにちっちゃいチョコレートケーキを出してね。

「チョコレートケーキですか?」

――そうよ。××屋さんのカレーって食べたことある?
あそこはね、カレーの後にデザートとしてチョコレートケーキが出てくるの。
それが合うのよ!
もちろんあたしはちっちゃいのを出すつもりなのよ? ひと口くらい。
カレーの後にちょっと口直しに、しっとりしたチョコケーキ。

――儲けなんて考えなくてもいいの。赤字にならない程度なら。
楽しみのためにやりたいの。
おいしい欧風カレーを出して、最後にちょっと、小さいチョコケーキを出して。
そういうお店をやってみたいの。
でもうちの近所じゃ、難しいかもしれないわ。

その人はまだ会社で働いていて、お店を出してもいないし、出す計画も立てていない。
その後この話を聞いたことはないけれど、あのときはとても楽しそうだった。

自分が出したいものを出す、好きなように経営する、小さなお店。
それは楽しい夢なのかもしれない。

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好きな人

神楽坂の人気店に行ったら、隅の方の小さなテーブルを指定された。
もっと早くに予約しておかなかったから、この荷物置きみたいなテーブルしか空いていなかったのだ。

スペイン料理をお洒落に食べさせてくれるお店、ということで、店内は女性客が多かった。

独身のS.Aさんと既婚者で二人のお子さんがいるS.Aさん。
イニシャルにすると同じになってしまう女性二人とわたしの、三人。

SingleS:Yさんはさ、素敵な人を見つけるのがうまいよね。私はなかなか「この人いいな」って思わない。思うことが大事だよね。
Y(=I):でもそれは、わたしが既婚者で、今さら真剣につきあうことはないからかも。この人と結婚するとか、つきあうとか考えると、やっぱり基準が厳しくなるよね。わたしは今は「××さんかっこいいね~」って言っているだけで、何か行動を起こすつもりもないから気軽に「素敵」とか「好き」って言えるんだと思う。
SingleS:そっかー。それもあるよね。

――それに、もうひとつ。
相手の気持ちを考える必要がないから、気楽に「素敵」「好み」と言える。
「あの人、素敵ね。私の好み」と若くて独身の女性が言ったら、その言葉は重みを持つ。
だから相手側は迷惑に感じるということもある。
そこまで行かなくても、まったく脈なしで、相手の方は他の子ばかり「あの子いいね」「あの子が好き」って言っていたら、自分がちょっと惨め。
でも既婚者だったら、相手と何かしたいわけではないから、彼の方は自分に一切興味がなくたって平気。
「こっちも何かしたいわけじゃないしー」と思えるので、悲しい気持ちになることもない。

SingleS:今行ってる仕事には素敵な人はいないの?
Y(=I):実はいるの。××さんていう人。優しいから派遣は皆、××さんが好き。
SingleS:やっぱりいるんだー! すごいなー、その積極性!
Y(=I):素敵な人を見てドキドキするのって、自分が潤う気がするからいいよね。結婚してから、素敵な人を素敵って思うのが気楽にできるようになった。付き合いたいってわけじゃないから、こっちも構えないし、相手も構えないし。
MarriedS:それってさ、大事だよね! やっぱりちゃんと女性ホルモン出しとかないと、お肌もくすんでいくしさ。気持も張りがなくなっていくしさ。そういう気持ちって大事だよね! でも絶対、何かしちゃいけないんだよね。「いいなぁ」ってとこで留めとかないと。

・・・・・・・・・・・・

Y(=I):SingleSさんの好みの人ってどんなタイプ? そんなに出会うの難しいの?
SingleS:そんなこともないと思うんだけど。

・・・・・・・・・・・・

MarriedS:でもさ、絶対一線を越えちゃダメなのよ。どんなに素敵だな~、好きだな~って思っても、何かしちゃダメ。でないと「子供二人抱えて大変なんですぅ~」って言いながらお酌することになっちゃうのよ。
Y(=I):お酌? スナックとかそういうところで?
MarriedS:そう。

・・・・・・・・・・・・

MarriedS:今の会社にはさ、いい人いないの?
SingleS:なぁんかねぇ。特にいないんだよねぇ。

・・・・・・・・・・・・

MarriedS:でもさ、やっぱりさ、やっちゃったらダメだよね。でないと「子供二人育ててるから、大変なんですぅ~」とか言ってお酌してるんだよ。

――人には何かを自分に言い聞かせている時期というものがある。
熱が冷めてしまえばどうということもないことだけれど、冷めないうちは気持ちを持て余すことがある。
それはとってもよく分かる。

夫婦はきっと、お互いそういうことを乗り越えている。

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